『名もなき巨木』


2013年11月、縄文杉に行く、そう友人と決めた時、「せっかくだから知らないことを色々教えてもらおう。」と、ガイドツアーに
参加することにした。登山口へはマイカー規制のため、公共のバスを利用するが満員状態だった。さすが世界遺産、閑散期だからと
言って侮れない。

登山口に付き、ガイドの案内のもと歩き始めると「夫婦杉」や「仁王杉」といった、見た目から名付けられたであろう看板が各所に
現れる。道も整備され、全体的に丁寧な印象を
受ける道のり。
6 時間かけてたどり着いた縄文杉は、少し離れた展望デッキから眺める。これは、人の踏みつけ等によるダメージ回避のため、
世界遺産登録以降に設置されたものだ。

私達のツアーグループ以外にも、複数のグループがいて、20人以上が順番に縄文杉の写真を撮っていた。
私は、繁忙期はこの比ではない、というガイドの話しを聞きながら、縄文杉の前ではしゃぐ友人を撮った。

途中、ガイドの勧めでウィルソン株と命名された切り株の中に入る。なんでも、ここは有名なスポットで、
ある角度から見上げると切り株がハートになるという。

ガイドがこの角度でシャッター切るんだよ、と手取り足取り教えてくれ、見事ハートの切り株がカメラに収まる。


次の日、別のコースへ行くと、やはりここにも「○○杉」という看板がある。

名前だけじゃなく、樹高○○mとか、周囲○○mとか色々な情報が書いてある。
友人も通り過ぎる観光客も、パチパチ撮っていく。

その後、友人は名所を巡り、私はその場に留まり植物観察。植物を見ていると、キイロスズメバチらしきものが一匹やってきた。
セオリー通り黙ってじっとする。すると、ハチは私をエサと勘違いしたのか、戯れだったのか、指にかじりついてきた。
スズメバチの顎は強靭と知ってはいたが、本当に痛い。痛くても相手がハチなだけに、払えず身をよじるばかり。
そんな滑稽な自分の姿を想像したら、おかしくなって笑ってしまった。
ハチから離れ、戻ってきた友人と合流し、彼女から名所の土産話しを聞く。
この辺りから、私の中で何かが騒ぎ出したので、友人にお願いし、最終日は別行動&単独登山にでかけた。

最終日、調べに調べて、一般的な観光客が行かなさそうな登山ルートを選択した。

携帯は圏外、単独行動、濃霧、何かあれば自力で対処しなければならない。

気合を入れ出発するも、すぐに雨が降り始める。吐く息も白い。レインウェアの下にダウンを着込むような天気のお陰か、
一日の間ですれ違う人はたったの三人だった。


その途中で見た名もなき巨木。これまで見てきたような、○○杉と書かれた看板はない。巨木といっても縄文杉には遠く及ばないし、
周囲も大小様々な植物が茂って全容が見えな
い。それでも、縄文杉にはない力強いエネルギーを感じ圧倒された。
道も看板も最低限の整備だけど、ここにいて正直ほっとした。

「縄文杉に感動せず、名もなき巨木に感動、天の邪鬼な私。」

そうFacebookに投稿すると別の友人から「村上さんらしくて安心する()」と書き込まれた。
この傾向は今でも変わらない。

道路脇にあったヘゴ。北海道ではまず見られないサイズのシダに大喜び。
道路脇にあったヘゴ。北海道ではまず見られないサイズのシダに大喜び。

ふっと出会って、ちょっと対話して、何事もなかったかのように去っていく。

目立つものじゃないし、長居するわけでもないし、強力な個性でもない。 

それが私にとって、魅力だったのかもしれない。